移動中の時間などにする妄想シリーズ、今回は熱電発電の調べごとです。
作業用の小屋を手に入れることが夢の一つですが、その小屋をオフグリットにしたら面白いなと妄想しています。そこで、必要な発電装置として、熱電発電の可能性を考えてみました。
発電装置として、ソーラーパネルが有力なのは間違いないですが、ストックできる燃料式の発電装置もあったらいいなと考えます。
いざという時の備えとしては、ガソリン式の発電機が良いんでしょうけど、もっとこう、日常的に併用できるストック型の発電方式はないかと。
里山において、自家調達可能な燃料と言えば、薪。薪を使った発電装置の可能性を調べてみます。
発電方式
薪を使った発電装置には、蒸気機関式、ガスエンジン式、スターリングエンジン式、熱電式などが考えられます。
■ 蒸気機関式
薪を燃やした熱で、水を水蒸気にしてタービンを回して発電する方式。火力発電所の方式で、火力が要る、持続運転、装置が大きいなど、自家用としては難があります。
沸点の低い液体を使う方法(バイナリー発電)もあるらしい。
■ ガスエンジン式
薪を炭にする工程で発生する一酸化炭素や水素をガス燃料として、エンジンを回して発電する方法。木炭車に使われていました。暖炉と併用したいので、屋内だと一酸化炭素は怖いですね。炭窯とか屋外ものと併用だったら面白いかも?
■ スターリングエンジン式
熱することによる体積変化(膨張、収縮)によってピストンを動かす外燃機関です。理論上は最もエネルギー変換効率の良い原理だけども、実際は外に熱が逃げるし、出力も低く、あんまり実用的ではないんだとか。
■ 熱電発電式
物体の温度差が電圧に直接変換されるゼーベック効果という現象を利用して発電する方法。モノ的には、異種の導体を直列に繋げただけのシンプルな構造。可動部がないため耐久性に優れるけども、エネルギー変換効率はとても低いとのこと。
熱電式は出力は低いとは言え、暖炉や釜戸に内蔵するには適した方法じゃなかろうか。って事で深掘りしていきます。
熱電発電の市販品
出力の程度を探るために、既製品の発電能力を見ていきます。
検索でヒットしたのが以下。
■ BioLite キャンプストーブ
https://www.bioliteenergy.jp/
キャンプ用途。記載では2~4W(5V)とあり、使用レビューでもmax.2Wとのこと。ガラケーくらいは充電できるよう。価格は2万円程。1Wあたり1万円。
■ 熱電発電機【ミニ】
http://cool-island.com/?page_id=254
カタログ値は15Wで、使用レビューをみると8W程度との事。価格は2.7万円程。カタログ値で1Wあたり1800円、実測値だと1Wあたり3400円。
外形は220mm × 145 mm × 102mm。
薪ストーブ発電を利用して、マキタTV100を運用してみる。
https://ameblo.jp/12v/entry-12563284117.html
■ 100W用ゼーベックユニット
https://takagiss.co.jp/unit/100seebeckunit.html
150×300ミリのサイズで100Wの発電が行なえるユニット。100Wの出力に必要な温度差は200℃とのこと。価格は50万円程。1Wあたり5000円。
コスト的には、熱電発電機【ミニ】くらいしか選択肢がないですが、小屋の電力としては、意外とコンパクトで実用的な出力だと思いました。3,4台あれば、照明とPCくらいはまかなえそう。
コスパに関しては、ソーラーパネルもピンキリですが、100〜150Wあたりのものなら1Wあたり500円以下(カタログ値)なので、高いのには違いないです。
産業用のモジュールならB4サイズで1000Wの発電も期待できるらしい(温度条件500℃ー20℃)。
クルマの廃熱で電力不足解消――東芝の熱電モジュール
https://www.itmedia.co.jp/lifestyle/amp/0405/20/news002.html
自作できるか
発電量自体は期待できそうだけど、コスパは悪いという感じですが、自作したら資材費だけで安くできないか検討してみます。
発電をする熱電素子として、上のような製品の多くは、ペルチェ素子が使われていると思われます。しかし、ペルチェ素子は冷却用なので、耐熱性は一般に150℃くらい。特別な耐熱性のものでも250℃くらいです。当然、直火には耐えられません。
じゃあ、どうしているかと言うと、耐熱板を挟む・板との接触面積を減らすなどして、ペルチェ素子伝わる熱を耐熱以下になるようにコントロールしていると考えられます。
熱電素子自体の耐熱性はどれほどか。
ペルチェ素子は、性能が良いBi2Te3系の半導体が使われますが、この半導体自体が250℃以上の高温には耐えられないんだとか。
では、高温領域の熱電素子として何が使われるかというと、コバルト酸化物やマンガン酸化物なんかが使われるようです。
産総研:200 ℃から800 ℃の熱でいつでも発電できる熱電発電装置
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2017/pr20170323/pr20170323.html
金属同士の相性を見極める-熱電変換モジュールの開発-
https://www.hitachi.co.jp/rd/sc/story/thermoelec/index.html
それでも高温となると、熱の繰り返し等で素子自体や接合部で亀裂が入り劣化するので課題は多く、これらの素子は、現状、一般普及段階ではないようです。ペルチェ素子のように個人で入手もできない。
ということで、ペルチェ素子を耐熱以下になるような構造にして、発電させるというのがやっぱり現実的ですかね。
ペルチェ素子を使った発電機の作り方とその検証
https://www.lec21.com/report-seebeck-effect2/
上記の検証では、ペルチェ素子3つで、発電量は1.5W(4V×375mA、温度160℃-100℃)くらいとのこと。肝心のペルチェ素子(SIS製T150-60-127型)のスペックが検索しても出てこず、わからないのですが、絵的に40mm×40mmくらいな感じなので、下記の製品くらいと予想します。
ペルチェ素子 6Aタイプ(40x40mm) TEC1-12706 ¥900
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-00485/
素子自体のコストは900円×3/1.5W=1800円/W。
んー、これに色々付属するので、頑張っても、上記、熱電発電機【ミニ】と良くて同等・・・、まぁ、高くなりますね。
金属でできるか
じゃあ、高温に耐えられそうな金属はどうか。異種金属のセーベック効果による起電力は小さいので発電用途には向かないというのが通説ですが、手間賃度外視ならあるいは?ってことで検討してみます。
耐熱性が必要ということは、接続は溶接するほかありません。異種の金属の溶接は職人技と思われますが、まぁ仮に頑張って溶接できるようになると仮定します。
起電力が小さい点を、頑張って溶接で繋ぎまくるとしても、金属は熱伝導率が高いため、高温側の熱が低温側に伝わってしまいます。熱源と共に冷源が必要です。現実的には水ですね。しかし、異種金属の接合点に水を撒いてしまったら、ガルバニック腐食してしまう。絶縁皮膜が必要ですが、高温に耐える皮膜っていったらセラミックコートとか?耐熱300℃くらいの耐熱塗料はあるので、自作もできそうですが、メンテフリーとはいかなくなりそう。
もう既に色々と無理そうですが、必要な起電力を得るのに材料費を算出してみます。
熱電対電池を作ろう
https://www.hakko.co.jp/expe/new/exnew0301.htm
このサイトでは、熱電対で発電を試みていますが、抵抗が大きすぎて、発電できませんでした。熱電対は起電力の電圧を測定するものなので、抵抗は高くても問題ないため、できるだけ材料を減らすべく、細い線を使います。
熱電対素線の抵抗率
https://www.jp.omega.com/techref/pdf/熱電対に使用される金属特性.pdf
K熱電対、導線が0.1mm、1本あたりの長さの情報はありませんが見た目から10cmとし、100本繋いだということで、溶接部の抵抗は0として、抵抗値を計算すると、1250Ωくらいでした。
測定すると370Ωであったと書かれていますが、随分計算値と乖離がある・・・なんの差でしょうね?
まぁ、ともかく、線が細いのでそれなりの抵抗になってしまうという事で、太い導線を使う必要があります。
ペルチェ効果の基礎理論
https://www.tzwrd.co.jp/technology/toragi/toragiAppen0703.pdf
上記によると、温度差あたりの起電力の変化率を表す相対ゼーベック係数は、J熱電対である鉄-コンスタンタンで54.9μV/K。入手しやすそうな鉄と銅だと12.2μV/Kと、1/4.5。
コンスタンタンは、起電力が大きいけど、抵抗も大きいので計算してみないとどっちが良いのかわからない。
片方の金属を鉛とした場合のゼーベック係数である熱電能をみると、アルミと鉄も起電力が高そう。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ejisso/27/0/27_405/_pdf/-char/ja
上記によれば、鉄とアルミのゼーベック係数は、12.2μV/Kと、鉄と銅と同等(理論値の65%とのことで単純比較して良いかわかりませんが)。アルミは銅より抵抗率が高いですが、安価です。融点が低いので鉄との溶接が難しそうな上、下手すりゃあ溶けそうですが。
必要な直列数を計算してみます。
発電電圧の目標は、12Vの鉛蓄電池に充電可能な15Vとし、温度差は300℃得られると仮定します。
鉄とコンスタンタンだと、1つあたり54.9×300=16.5mV。15Vを得るのに必要な数は910個、溶接箇所はその倍です。
鉄と銅だと、910×4.5=4095個。ビット数みたいな数になってきた。
厚み(長さ)1cmで温度差が実現できるとして、それぞれ必要な長さは、鉄-コンスタンタンだと9.1m、鉄-銅だと41m。
直径1mmにおける各素材の導線の抵抗を計算してみると、9.1mのとき、コンスタンタンは5.7Ω、鉄は1.0Ω、合わせて6.7Ω。
41mのとき、鉄は4.7Ω、銅は0.9Ωで、合わせて5.6Ω。
そこまで差がないので、工数上はJ熱電対の組み合わせに軍配が挙がります。とはいえ、まだ電池としては抵抗が高いですが、上記サイトの実測では、なぜか計算値よりかなり低くなったので可能性はある?かもしれません。
コンスタンタンは値段がわかりませんでしたが、1mmの銅線が80円/m、鉄線は5円/mとすると、それぞれ41mで3500円くらいです。抵抗の計算値を考えると、倍になるかもですが、まぁ許容できます。
アルミ線が銅の代わりに使えるなら6円/mくらいなので、もっと安く、資材費は問題じゃないですね。
問題は、1万箇所近い溶接が必要なこと。5mmピッチ配置できたとしても500✕500mmのサイズ感になり、耐熱性の絶縁保護が必要な上、1箇所やられたら終わりっていう脆弱性・・・、魅力があるとは言い難い。
まぁでも、溶接は手間かかりすぎにしても、波状の型に鉄とアルミを交互に配置してうまく溶かして接合させるなど出来れば、実験ネタとしては面白そうですが。
熱電発電は、持続可能な社会の実現のため、注目されてはいるようで、高温発電用の熱電モジュールやスピンゼーベック効果など新たな熱電技術も開発されています。普及していくといいですね。
以上、妄想おわり。